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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

スウェーデンの高齢者ビジネス(1)

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

前回はスウェーデンの少子高齢化問題についてご紹介いたしました。今回はスウェーデンの高齢者ビジネスについてご紹介いたします。

スウェーデン人と定年退職

スウェーデンでの定年年齢は65歳。

現役で働いている時から、残業はしない、長期の夏休みをとる、週末は家族と過ごす、など趣味やプライベートの過ごし方が上手なスウェーデン人。それでも、この『65歳』という定年年齢が、早すぎると感じる人は少なくない。65歳となって会社から身を引いた後、突然できる自由な時間をどうしたらいいのか、戸惑う人は少なくない。

また、体力的にまだまだ元気な人は自分が持っている経験や能力をもっともっと活かしたいと感じでいる。そんな中、2007年夏に立ち上げられた『Hyr en pensionar(定年者レンタル)』という会社が、現在大変な注目を集めている。


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『Hyr en pensioner』のウェブサイト

2007年に個人事業としてこの会社を始めたのは当時66歳だったルーネ・ダニエルソン氏。2009年にダニエルソン氏は他界してしまったが、現在は彼の妹や友人たちによりそのビジネスは引き継がれている。

当時、自身が定年退職者だったダニエルソン氏はストックホルム郊外のヨードブローという小さな街で、一人でこのビジネスを始めた。当時は自宅のキッチンテーブルが会社のオフィスだったという。創立から半年で、雇用者数は0から75名へと増え、現在でもさらに増え続けている。

『定年者レンタル』のビジネスアイディア

この『Hyr en pensionar(定年者レンタル)』というビジネスは、手に職を持ち、また専門分野での経験・実績を持つ高齢者たちの熟練した技術、能力、知識を格安で提供するというものだ。大工、不動産代理店、電気技師、教師、運転手、コンピューターサポート、子守、会計士などなど、様々な職業がストックされている。また、なかには『パイロット』や『コック』『理学療法士』などといった特殊な職業もある。

税金の影響もあり人件費が基本的に非常に高いスウェーデンにおいて、上記のようなサービスが格安で受けられるというのは大変魅力的である。例えば、大きな企業に自宅の電気工事や配管工事などを頼んだ場合、通常1時間につき約600~1,000kr(約9,000~15,000円)ほどが相場となる。

しかし、この『Hyr en pensioner』では同様のサービスを300kr(約4,500円)弱で提供している。

広がるビジネス

ダニエルソン氏の立ち上げたこのビジネスは、現在スウェーデン各地に広まりつつある。スウェーデン北部のGalvborgという街で同様のビジネスを始めたのは、フォルケ・ラーム氏だ。

 
スウェーデン北部のGalvborgで『Hyr en pensionar』を運営するフォルケ・ラーム氏。

実は、ラーム氏は、2007年にストックホルムに住む娘夫婦の家の改装をきっかけに、前出のルーネ・ダニエルソン氏と知り合った。自分の住むエリアでもこのサービスを利用できるかと尋ねたところ「ぜひ、君が自分でやるべきだよ」というアドバイスをもらい、会社を始めたと言う。現在では300名近くの雇用者を抱え、今年11月にはスウェーデン中部にあるダーラナ地方にも支部をオープンしようと奔走している。

「もちろん、私達はどんな仕事でも対応できますよ。個人のお客さんだけじゃなくて、企業や自治体からの仕事の注文もあります。ダーラナ地方でも11月ごろにはサービスが開始できるように今動いています。」ラーム氏は、スウェーデン人は年齢にこだわりすぎていると思うと語る。

「65歳以上でもこんなにも働きたい、そして実際に働ける人がいるのに、高齢だからという理由だけで働くことができないのは少し悲しいと思います。例えばまだ定年年齢でなくても、50歳をすぎればだんだん仕事が見つかりにくくなります。定年後働きたいとなれば、どうやって、どこで適度な仕事を見つけたらいいかも、わからないし。」

様々なサービス内容

彼らの会社には、実に様々な種類のサービスがある。以下は、ラーム氏の会社が個人向けに提供しているサービス内容の一部だ。

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また、需要と供給が合致すれば、上記以外の特別なサービスを提供することもある。

例えば、11歳のヘンリク・ペトロブ君は夏休みに元校長先生の特別個人授業をうけることになった。『Hyr en pensioner』で働くケニス・デルマン氏は、ストックホルムから南へ2時間ほど行ったところにあるヤルナ市にある特別高校の校長だった。ヘンリク君はロシア人の母を持ち、数学、英語、そしてスウェーデン語(国語)の学習補助が必要だ。学校でケアしきれない部分を夏休みの特別授業として、デルマン氏がサポートしている。


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ヘンリク君の夏休みに特別授業をするケニス・デルマン氏。

また個人向けと並んで、企業向けにも十分対応できるサービスを用意している。

「例えば現在の私たちのスタッフには、元警察署長も含め警察官も何人かいるし、会計士、コック、ジャーナリスト、あらゆる種類の技術職人、さらにはパイロットまでいます。」企業向けに提供しているその他のサービスとしては、ケータリング、運転手、販売員、コンサルタント、翻訳、梱包作業など多岐にわたる。現在は売上の70%が個人客だが、次第に企業からの利用も増えているという。

それでは、料金はどうなっているのだろうか。

「税金込みで、1時間290kr(約4,350円)です。個人のお客さんの場合は最低2時間から注文を受けます。企業だと3時間からです。」

この料金で、客は皆簡単にサービスを利用できるのかと尋ねると、
「もちろん個人差はありますが、たとえば個人が家関係のサービスを利用する場合、政府の補助制度として費用の50%を確定申告の際に税金から差し引くという制度が利用できます。つまり、その場合料金が半額になるということです。」

高齢者のための高齢者によるビジネス

「人は、必要とされていると感じることが、健康で元気でいつづけるために絶対必要なことなのです。」

ラーム氏自身、以前心臓発作や股関節の手術などの大病を患ったが、仕事への情熱のおかげでリハビリテーションはとてもスムーズだったと語る。自分が必要とされていると感じる高齢者ほど、病院のケアは必要とされないという。

ラーム氏自身が元気な高齢者の生きた見本だ。
『Hyr en pensionar』社以外にもミッション会議に参加したり、様々な勉強会の委員長を務めたり、アウトドアキャンプグループの代表だったりする。さらには、最近設立された『スウェーデン・シニアクラフト(スウェーデン高齢者パワー)』という現在20数社の高齢者によるサービス会社を統括しているNPO団体の代表も勤めている。

まとめ

若い人たちに比べれば、仕事への野望や体力は劣るかもしれないが、仕事の経験や許容範囲という面では少しも引けをとらない高齢者たち。1時間に1,000kr(15,000円)も払えないけれど、ちょっと手伝って欲しい・・・という一般の人々のニーズと、収入は少しでもいいから人に必要とされる仕事がしたいという高齢者たちのニーズが、ぴったり合致した需要と供給の両方にメリットのあるビジネスモデル。今後も大きな成長を遂げていくことだろう。

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