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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

スウェーデンの高齢者ビジネス(2)

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

前回はスウェーデンの高齢者ビジネスについてご紹介いたしました。今回も高齢者ビジネス編(2)として、開けやすい容器・包装プロジェクトについてご紹介いたします。

リウマチ協会の活動

2004年11月からNPO法人スウェーデンリウマチ協会は『開けやすい容器・包装プロジェクト』を実施している。

スウェーデンでは150万人(スウェーデン全人口の約16%)の人々が、日常的に使用する製品に、より開封しやすいパッケージを求めているという調査結果がある。

リウマチ協会はリウマチ患者や高齢者を含めそのような消費者を代表する重要な組織だ。このプロジェクトはHSO(ハンディキャップ協会)、PRO(年金生活者団体)、SPF(スウェーデン年金協会)そしてスウェーデン消費者団体などとの協力の下、行われている。

また、スウェーデン国家遺産基金より資金援助を受けている。

このプロジェクトの目的は、全ての消費者が自分自身の手で簡単に開封し、必要な分量を取り出し、再度閉じることができる容器や包装を市場に普及することである。対象となる容器・包装は薬局で販売されている薬の容器などから、スーパーの食料品、日用雑貨品、電化製品など日常で使用する全てのものである。

 
ふたの開けにくい製品に悩まされたことはありますか?

地域の運動と組織的な働きかけ

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手の力の弱くなった人々にとってあらゆる製品の包装を開けることは困難な場合もある。

リウマチ協会は、地域密着型と中央主導型の活動の両方を平行して行っている。
現在このプロジェクトには様々な団体・組織・協会から815名の担当者が参加している。現在ある34の地域プロジェクトグループは、食品スーパーや薬局など様々な店舗での市場調査、アンケート、消費者への街頭インタビューなどを行い、パッケージに関して実際にどのような問題点があるかを浮かび上がらせる活動をしている。それらの事実を踏まえた上で大手食品メーカー、薬メーカーそして容器・包装業界の有力な企業に働きかけ、各組織との対話を重ねている。

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食品メーカーなどとの対話を重ねてパッケージの問題点を見つける。

大規模な協議会

2007年11月、リウマチ協会主催の『開けやすい容器・包装』に関する協議会がストックホルムで開催された。参加したのはスウェーデンを代表する大手スーパーマーケット3社ICA(イーカ)、COOP(コープ)、Hemkop(ヘムショップ)、食品メーカーのAMEGEN(アメゲン)、SCAN(スキャン)、さらに医療薬品産業協会など多数の重要企業だ。

協議会では、様々な視点からのプレゼンテーションが行われた。プレゼンテーションを行ったのはリウマチ協会の代表者はもちろんのこと、SIS(スウェーデンスタンダード協会=ISOのスウェーデン版)やクラス・オルソン社(スウェーデンの日用雑貨小売最大手)、テトラパック社(スウェーデン容器・包装業界最大手)、スウェーデン消費者団体など多岐にわたる。

『開封しやすい容器・包装』への関心は高まるいっぽうであり、また実際に多くの改善されたパッケージが店先に並びだしている。以下は扱いやすくなった容器・包装の一例である。

1)卵ケース。シンプルな紙の容器。
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2)ジュースのパッケージ。取っ手を引くと簡単に開けることができる。
 
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3)スナック菓子の袋。開けやすい場所が簡単にわかるようになった。

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4)牛乳パック。フタをひねれば簡単に牛乳を注ぐことができる。
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5)砂糖の容器。注ぎ口を開くだけで簡単に中身を出すことができる。
 
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6)シンプルな包装の工具。
 
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デザイン学校との共同研究

現在ある製品の容器・包装を改善するだけでなく、将来の容器・包装デザインへの働きかけとして、このプロジェクトはさらにデザイン学校との共同研究プロジェクトも行った。今後容器・包装分野で働く学生たちがパッケージに関する問題を調査・検討し、新しく扱いやすいデザインの解決法を考える。

このプロジェクトに参加した学校は、以下の3校だ。
・ KONSTFACK (コンストファック=スウェーデン王立美術大学) インダストリアルデザイン部
・ NACKADEMIN (ナッカデミン) 2年制職業訓練校。パッケージデザイン部
・ FORSBERGS(フォーシュベリー) グラフィックと広告デザイン専門の私立の学校

 

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現在販売されている製品の容器・包装を見ながら検討する学生たち。

また、この学生プロジェクトにはスウェーデンを代表する大手企業が協力している。協力企業は、アーラ、イーカ、アックスフード、アッバ、シーア・グラス、コープなどスウェーデンでは誰もが聞いたことのある大手企業ばかりだ。

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参加企業のリスト

以下は、この共同研究プロジェクトで発案されたアイディアの一部である。(製品化はされていない)

1)小分けされて開けやすく扱いやすい牛乳パック。
 
 

2)簡単に開けることのできる冷凍ハンバーグ肉の袋。
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3)新しい発想の牛乳パック。
 
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ロゴマーク

さらに学生との共同研究の期間中に『開けやすいパッケージ・ロゴマーク』のロゴデザインコンテストも実施された。ここで大賞を受賞したロゴマークは、将来リウマチ協会が設定する『開封しやすいパッケージ』基準をクリアした製品に表示するマークとして使われる予定だ。

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ロゴマークコンテストの大賞を受賞した作品

 

このコンテストで大賞を受賞したのはフィンランドのヘルシンキにある美術・デザイン大学の学生、マリカ・ヘイリモ氏だ。
ヘイリモ氏は自身のマークのデザインについてこう語る。

「パッケージというのは開けるのも閉じるのも簡単に自分自身の手でできるものでなければいけないと思います。日常生活における箱やカン、ビンなどを開封するのに“力強いグリップ”や特別な知識などは必要となるべきではないのです。」

このシンプルでわかりやすいロゴマークを近い将来、スウェーデンのスーパーや薬局で見かけることになるだろう。

まとめ

『開けやすい容器・包装』を現在切実に必要としているのはリウマチ患者や高齢者、障害者など一部の消費者だけかもしれない。

しかし、その問題を一部の弱者の問題として軽視するのではなく、重要な問題であると認識し多くの大手企業がプロジェクトに賛同・協力する姿は、とてもスウェーデンらしいと感じられる。また、プロジェクトにおいて既に存在する製品を改良・改善するだけでなく、学生などを巻き込んで将来の容器・包装業界をも視野に入れた活動を行う手法からは、学ぶところが多いのではないだろうか。

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