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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

スウェーデンの高齢者ビジネス(4)

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

前回はスウェーデンの民営化事情として、国営薬局の民営化問題についてについてご紹介いたしました。今回は高齢者ビジネス編(4)としてベストシニアレストランについてご紹介いたします。

ゴールデン・カウ賞

スウェーデンの乳製品製造最大手のArla Foods AB(アーラ・フーズ株式会社)は、毎年「Guldko(=ゴールデン・カウ賞)」と呼ばれるコンペティションを行っている。

同社のおなじみのロゴマークである牛にちなんで「ゴールデン・カウ」と名付けられたこのコンペティションは2009年で10年目を迎えた。
このコンペティションの目的は企業や団体の『食への喜びを求める取り組み』や『環境問題への有益な打ち込み』などを評価するというもので、『飲食業界のオスカー賞』とも言われているそうだ。
今年の授賞式は、4月22日にストックホルムのグランドホテルで行われた。

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ゴールデン・カウ賞のトロフィーはアーラ社のロゴマークである、おなじみの牛。

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スウェーデンでの食事には欠かせないアーラ社の乳製品(例:牛乳パック)

このコンペティションは5部門に分かれている。
「ベスト・環境対策賞」、「ベスト・学校給食賞」、「ベスト・ファーストフード賞」、「ベスト・スーパーマーケット賞」、そして「ベスト・シニアサービス賞」だ。
各カテゴリーの最優秀賞受賞企業は、アーラ社オリジナルのゴールデン・カウ像、表彰状、そしてさらなる研究のための賞金が与えられる。

以下は今年の各受賞企業だ。
●ベスト・環境対策賞
Coop Konsum (コープ・コンスム社)
●ベスト・学校給食賞
Tensta gymnasium i Spanga (スポンガ市のテンスタ高等学校)
●ベスト・ファーストフード賞
ICA Stop i Taby (タービ市のイーカ・ストップ)
●ベスト・スーパーマーケット賞
ICA Supermarket Parkhallen i Orebro (オレブロー市のイーカ・スーパーマーケット『パルクハッレン』)
●ベスト・シニアサービス賞
AB Blomstergardar i Danderyd (ダンデリュード市の株式会社ブロムステルゴーダル)

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ベスト・シニアサービス賞に輝いた(株)ブロムステルゴーダルのメンバー。

ベスト・シニアサービス賞を受賞したブロムステルゴーダル社の受賞の理由を、審査員たちはこう語る。
「ブロムステルゴーダル社の運営するスバルネース・レストランは、全てのゲストを気持ちよく迎えるよう、スタッフの教育や内装の工夫がとてもよくなされています。現在の大変な不景気の中でもゲストのことを第一に考え、心地よい時間がすごせるよう努力しています。また、ゲストの視線にたって、日々の食への喜びとは何かを考えていると思います。」

受賞した(株)ブロムステルゴーダルのレストラン責任者であるヤン・ヘドベリーは「ああ、本当に嬉しいです。これで、あとはただ今までどおり私たちのできる限りの努力を続ければいいのだと思います。それは、おいしい料理を作ること、そしてレストランのお客様がどのよう時間を過ごしているかを常に注意し、分析することだけです。」とコメントした。

ブロムステルゴーダル社 


ブロムステルゴーダル社の運営する高齢者住宅。

このベスト・シニアサービス賞を受賞したのはストックホルム中心部から北へ約15kmほどの郊外、Danderyd(=ダンデリュード)市にある“Svalnas restaurang”(スバルネース・レストラン)を運営する(株)ブロムステルゴーダール社だ。
この会社は、1921年に設立されたNPO団体、ブロムステル基金が所有している。

現在、このブロムステルゴーダル社は様々なタイプの高齢者住宅や病院、ゲストハウス、そして60歳以上であれば入居可能な高齢者用マンションなどを運営している。
同社の運営するのは、スウェーデンの中でも数少ない高級なプライベート高齢者住宅で、フルサービスつきの最も値段の高い部屋の1ヶ月の滞在費は60,000クローナ(約90万円)だ。
現在は約2,000人の高齢者がブロムステルゴーダル社の運営する様々な施設に住んでいる。

スバルネース・レストラン

スバルネース・レストランは、一般のレストランとして運営されるとともに、隣接するこの高齢者住宅に住む人々の毎日の食事を用意している。
またその他にも、特別に契約を交わしている近隣の市の高齢者住宅への食事ケータリングサービスも行っている。

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スバルネース・レストランの料理は、全て新鮮な素材を使い完全な手作りで作られている。
また、メニューのセレクションは、主に高齢者たちになじみのある伝統的な料理だが、チャレンジが好きな高齢者たちが満足するように、少し変ったタイプのメニューも用意している。
例えば、ある日のメニューは伝統的な「肉団子とマッシュ・ポテト」と少しエキゾチックな「アフリカ風煮込み」だ。

「多くの高齢者たちにとって、食事の時間というのは1日で一番楽しい時間です。だからこそ、ただ単純作業として食事の時間をこなすのではなく、それぞれのゲストたちがその食事を何かちょっと特別なものと感じてくれるように、いつも努力しています。私たちのビジョンは、私たちのハンドメイドの料理を食べる全ての人々が、満足し食への喜びを感じてくれるということです。」と、レストラン責任者であるヤン・ヘドベリーは語る。

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高齢者でにぎわうスバルネース・レストランの様子。

スタッフに求められる能力

スバルネース・レストランで働く人たちに求められる能力は、通常のレストランと少し異なる。
このレストランでは、「スピード」や「効率」ではなく、「根気」と「親しみのこもった対応」、そして「ゆったりとしたサービス」が重要となる。

このレストランの客の平均年齢はおよそ80歳だ。そしてほとんどの客は一日1回、多い時は2回や3回このレストランに訪れる。
スタッフはほとんどの客の名前と顔を記憶しており、名前を呼びながら接客を行うという。

時には認知症を患った客が、たった今食事をしたことを忘れ「料理がまだこない」と文句を言うこともあるという。
そんな時は、まず小さなサラダを出し、それでもまだ食べたいという場合はコーヒーとケーキやスナックなどを出す。
こういった臨機応変な対応は、このレストランに欠かすことはできない。

また、このレストランで働くスタッフは全員が緊急時の心肺救助訓練を受けている。誰かが転んで足の骨が折れたりしたときの緊急の対応方法の知識もある。
さらに一部のスタッフは、認知症の客への対応方法に関する特別コースを受講している。

まとめ

このすばらしいレストランを毎日利用することができるのは、この高級な高齢者住宅に住むことのできる限られた高齢者だけかもしれない。
しかし、レストランの選択肢の一つとして、このように高齢者が安心して、心から食事を楽しむことのできるレストランが存在する意義は非常に大きい。

また、今回ゴールデンカウ賞を受賞したことにより、このレストランのスウェーデン国内での認知度が上がり、他のレストランをよい意味で刺激し、国内のレストランのシニア・サービスのレベルを向上させる助けになるのではないだろうか。
 

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