HOME  >  スウェーデンシニアレポート  >  メディアでは取り上げられない「普通の老人福祉施設」での取り組み

ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

メディアでは取り上げられない「普通の老人福祉施設」での取り組み

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

スウェーデンの老人福祉施設での特徴のあるアクティビティは国内外から注目され、テレビやインターネットなどのメディアを通して知ることができると思います。そこで今回はメディアでは取り上げられない、「普通の老人福祉施設」での取り組みについてご報告いたしたいと思います。

普通の老人福祉施設

皆様すでにご存知のようにスウェーデンは福祉国家として知られています。また、福祉に関する様々な活動がメディアでもよく取り上げれられています。しかし、メディアで取り上げられるアクティビティーは特別なものである場合が多いと思います。そういった特別な活動の恩恵を受けることができる人は実際、それほど多くありません。
 
それでは一般的な人が享受することができるサービス・アクティビティとはどのようなものでしょう?メディアに取り上げられることのない普通の老人福祉施設ではどのような取り組み・アクティビティーが行われているのでしょうか?
 
今回はスウェーデンの首都ストックホルムから西へ120kmほどの所に位置するアルボーガという町にある、ある老人福祉施設を取り上げてみたいと思います。アルボーガという町は中世までその歴史を遡ることができるものの、人口1万人程度の「普通の町」と言っていいでしょう。
 
また、今回この老人福祉施設を取り上げた理由は、筆者が街の中で、たまたまその老人福祉施設を運営する会社の車を見かけたというだけのことです。とりわけて特徴があるわけではない、普通の老人福祉施設と言っていいでしょう。それでは普通の町の、普通の老人福祉施設がどのようなものか見てみましょう。
 

施設の雰囲気

この老人福祉施設では「健康増進」をキーワードにしており、入居者ができるだけ自立した生活を送れるようにしています。
 
施設の玄関を入ったところには、ビンゴ大会、読書会、運動、散歩などその週の入居者のアクティビティーの予定が貼り出されています。壁にはクイズが貼られていたり、リビングルームでは入居者の方がトランプ遊びをしたりと、とても楽しい雰囲気です。
 
0322_001.jpg 
老人福祉施設
 

施設での取り組み‐健康生成論‐

この施設では、「健康生成論」に基づいて様々なアクティビティを行っています。健康生成論とはイスラエル系アメリカ人の社会学者アーロン・アントノフスキーによって提唱されたもので、健康創成論、健康創造論あるいはサルートジェネシス(Salutogenesis)とも訳されます(スウェーデン語ではSalutogenes)。
 
日本ではまだ馴染みのないものかもしれませんが、スウェーデンでは1・2年ほど前から注目を集めている概念です。通常は病気になった人はその病気の原因を取り除けば健康になると考えますが(病因論)、健康生成論では健康な人がなぜ健康なのか?という視点から健康について考えます。
 
施設ではこの概念を応用し、入居者が“病気にならない”ではなく“より積極的に健康になる”ことを目指しています。アクティビティ担当課長のローセンダールさんによると、今では全職員が健康生成論に基づく取り組みを受け入れて、職員間で普及しているとのことです。
 

トレーニングを受けた職員

この施設には健康生成論について学び、トレーニングを受けた職員が3人います。
 
その内の一人、スコッグスベリィさんは入居者の方を、入居者の方の視点に立って、元気づけることが大事だと言っています。散歩、読書会、ご飯を自分でよそう、ベッドから食堂まで自力で行くことなどを入居者が積極的に自分で行うようにサポートしているとのことです。また、グループでの活動、個人での活動両方をサポートしています。
 
また、別の職員のオルソンさんは、入居者の方が何をやりたいのか?何ができるのか?何が好きなのか?ということを常に意識しているとのことです。
 
もう一人の職員リッカードさんは、入居者の能力を引き出すことが大事だと言っています。ちょっとした能力でも引き出すために、例えば時間を割いて一緒にパンを焼いたりしています。そして入居者にはそのアクティビティーをできるだけ長く続けてもらいます。
 
もちろんそのアクティビティーが入居者の能力を超えていてうまくいかないときもあります。その場合は柔軟に、新たに能力にあったアクティビティを取り入れるそうです。
 

入居者の反応

この健康生成論に基づくアプローチは非常に評判がよく、入居者の方にも大変喜ばれているとのことです。1年ほど前に施設に来たモーエンさんも大変満足しており、ビンゴ大会、運動、クイズをやるのがお気に入りとのこと。施設に来る前の生活と変わらず、その上、楽しい仲間に囲まれて大変満足とのことです。
 

0322_002.jpg

トランプゲーム、ミニボーリングに興じる入居者
 
別の入居者、カールソンさんにとっては様々なことを自由にできることが気に入っているとのことです。カールソンさんは施設ではやりたい事ができるし、入居者は団結してると感じています。ほとんどのアクティビティに参加しており、散歩が特にお気に入りだそうです。
 
「でも、冬の散歩はちょっときついなぁ。スキーにでも行こうかね」と冗談も飛び出し、周りの人の笑いを誘っていました。
 

まとめ

今回は通常メディアに現れることのない、普通の町の普通の老人福祉施設での取り組みをご紹介いたしました。また、そこで取り入れられていた健康生成論という考え方をご紹介いたしました。
 
老人福祉施設に入居するというと、健康でなくなり、自立した生活ができなくなったというネガティブなイメージを持ちがちですが、健康生成論に基づいた取り組みを行えば、健康増進のために施設に入り、もっと健康で元気になる!といったポジティブなイメージを持つようになるのではないかと感じています。 

ページTOPへ