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ヨーロッパ高齢者事情研究のため、2007年2月ストックホルムシニアライフ研究所を開設しました。
現地から最新の高齢者事情をレポートします。

家族の介護(1)

松下泰志(Taishi Matsushita: 2012/1-), セスレ真美(Mami Sessle: 2011/11-2011/12),
ローベリ亜佐子(Asako Raberg: 2011/1-2011/10), ダールマン容子(Yoko Dahlman: 2007/2-2010/12)   

今回のレポートでは家族の介護について取り上げてみたいと思います。スウェーデンでは成人の約2割(約130万人)が何らかの形で家族の介護、サポート、補助をしています。介護をする人のうち65歳以上の人の数は1万人以上になります。介護が必要な人の数が増えているのにともなっていわゆる老老介護の問題が出てきています。
 

介護をするようになって –Aさんの戦い

 
はじめにご主人が脳卒中になって介護が必要になったAさんのケースを取り上げてみたいと思います。
 
Aさんはある日突然介護をする事になりました。ご主人が脳卒中になったのです。ご主人が突然うまく話すことができなくなったので、すぐに病院に行ったそうです。最初は寝たきりでしたが、すぐに車椅子生活が送れるようになったそうです。それでも左半身が麻痺して左側の視界が狭くなりました。リハビリという辛い日課がありましたがご主人は頑張っていたようです。ご主人を励まし続け、そして家に帰る日が来たのですが、そこから新たな戦いが始まりました。
 
1.ストレスとの戦い
その当時Aさんも関節痛などの持病を持っており辛かったそうですが、我慢してご主人の介護をしたそうです。ご主人のことばかり考えており、時間がなく、自分の体のことや病人を介護する人へのサポートに関する行政サービスのことまで考えが及ばなかったそうです。また、ご主人の帰宅に備えて、家の改修(段差を取り除く、ドアの幅を広げる、手すりをつけるなど)をする必要もあり、そのことでもAさんはストレスでいっぱいでした。また夜、多い日は20回ぐらい起きてご主人の介護をしないといけないような状態だったそうです。一人でご主人の健康に責任を持たなければならないというプレッシャーや介護の疲れからヘトヘトになったそうです。イライラしてご主人に辛くあたってしまったとき自分にも休息が必要だと感じたそうです。このようなとき自由な時間が必要です。現在Aさんはご主人に1ヶ月に1回(3日ほど)短期のケアセンターに滞在してもらい介護の負担を軽減しているそうです。その他にも自分の自由な時間を作るために努力されています。
 
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2.行政との戦い
行政がご主人にリハビリサービスを提供してくれたのですが、少しの期間しか対応してくれなかったことにAさんは不満をいだいたそうです。とりあえずリハビリグループを作っただけという感じだったそうです。ご主人が自分の力では車椅子から立ち上がれないままリハビリをやめてしまい不満が残ったそうです。
 
ご主人をデイケアセンターに預けるとときどきご主人の体調が悪くなる時があるそうです。デイケアセンターに滞在してもらっても、安心して預けられなければ休息になりません。ご主人が滞在しているデイケアセンターの施設の人の明らかなミス、いい加減な仕事が原因で何かに感染したり、患者の衛生を管理しない、医療ミス、患者への接し方などに不満があったそうです。これは施設の責任です。「不満があるならばどうして他の施設を選ばないのか」と思われるかもしれませんが、ご主人がその施設は長く利用しており、また、自宅から近かったなどが理由だそうです。環境を大きく変えるのはリスクがありすぎると判断したようです。このような経緯から去年(2012年)の12月に市と厚生労働省に苦情申し入れ、色々指摘して抗議したそうです。
 
3.さらなる活動
患者さんの環境を良くするためにAさんがいろいろな活動を行なってきた原動力はひとえにご主人の健康状態を少しでもよくしたいという思いからでした。
 
Aさんは次のように言っています。
「主人がより良くなるために今後も活動したいと思います。沢山の人がある日突然ケアをする側に回ることになります。その人達がよりよいサポートを得るために頑張らないといけないと思っています。他の人にとっても自分の活動がヘルプになると信じています。」
 
 

介護をする人へのサポートの重要性

先にAさんの状況を説明いたしましたが、この例からもわかるように、介護をする人の負担は相当なものです。
 
専門家によると、「介護をすればするほど介護をしている側の人も自分自身の健康にリスクを負うことになります。かといって介護をやめるわけにもいきません。日々のプレッシャーはエネルギーを消耗し、自分がやりたいこともできなくなります。『なんとかなる』という言葉とは裏腹に、深層心理は不安がいっぱいで鬱状態となります。」とのこと。
 
介護が必要な人を直接サポートすることはこれまでにも行われてきました。介護が必要な人をサポートすることが介護する人をサポートすることにつながっていたとは思いますが、近年は介護をする人をサポートするというところにより視点・重点を置いた考えが広がってきています。そのため、行政が介護をする人をサポートする制度を作りました。ただし、介護をする人を行政がサポートする制度があることがあることを知っているのは、介護に関わっている人の25%に過ぎません。各市町村がどのようなサポートを提供しているかを示す公式な統計もありません。また、そのサポートの質が高いものなのかどうかもわからないのが現状です。病院のベッド数が少なくなったり、高齢者が住める家の数が少なくなったりした時、誰が家族に対して責任をとるのか・・・。介護は家庭で行われるようになってくるのでしょうか?まだ不透明な部分が多くあるといえるでしょう。
 
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ストックホルム近郊に介護する人をサポートするという視点にたって運営されているペンション型の介護施設があります。主に認知症の人を受け入れています。200平方メートルほどの部屋(4人用)で数時間から数日過ごすことができます。家族がここに介護が必要な人を預け、後日迎えに来ます。一歩踏み入れると普通の家庭のようです。洋服がハンガーに掛かっており、絵葉書が壁に飾ってあり、鏡があり、話し声が聞こえ、コーヒーの香りが部屋に漂っています。
 
ペンションのスタッフは、「今は満室だけど、結構部屋は空いてます。需要がたくさんあるのにペンションの存在が知られてないということでじれったく思ってました。我々は介護はしません。ただゲストが楽しんで、安全に過ごせることを目指しています。」と言っています。
 
このペンションで6年間働いてきたスタッフは、介護で本当に疲れきった人を何人も見てきたそうです。そのスタッフは次のように話しています。
 
「介護をする人たちというのは病気になった家族と同じような症状になっていく傾向にあります。認知症では無いのですが、患者さんの薬を家から持ってくるのを忘れたり、送り迎えの時間を忘れるようなことが起こります。そういう症状の裏にあるのは介護疲れです。一般的に本当に疲れた状態だと人にヘルプを頼むという大事なことすら難しくなります。もしこのようなことが起こっていたら私たちは病気の人を支えている家族の人のために、『いつでも預けていいですよ』といいます。『認知症の家族をペンションに預けなさい。じゃないとあなたが病気になりますよ』と。」
 
■ まとめ
今回のレポートでは、介護が必要な人をサポートするだけではなく、介護をする人をサポートする事が重要であることをお伝えしました。次回のレポートでは、引き続きこの家族の介護に関する問題を取り上げてみたいと思います。介護する人へのアドバイス、注意しなければならない徴候、今回取り上げたペンション型の介護施設に関することなどについて取り上げてみたいと思います。
 

 

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